日本語教師奮闘記

日本語教師です。普段はツイッターでしょーもないことばっかり呟いてます。

JLPTには文型積み上げが効果的?

※長いです。

[概要]

・文型積み上げやめてタスクベースに変えた

・でも文法力変わらなかった

・JLPTそこそこ合格した(ただし対策教材は使う)

 

暇な人は↓を全部どうぞ。

 

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こんにちは、友です。

 

先月Twitterで某教科書がコミュニカティブかどうか、という話が盛り上がってましたね。

 

この記事も少し読まれたみたいです。

http://jpns.hateblo.jp/entry/2019/07/24/180450

 

そんな中、

 

「そうは言っても、なんだかんだ文型積み上げできっちり文法を覚えないとJLPTには合格できないでしょ」

 

「タスクベースで教えれば会話は上達するかもしれないけど、資格試験には向いてないよね。」

 

みたいな考えの人もいるらしいと気づきました。

 

で、気になるのは、文型積み上げを使っている人は「試験には文型積み上げ」って言うし、某基金に言わせればそんなことないって反論が出てくるし、でもお互い口だけで主張してもしょうがないし…実際のところ行動中心アプローチとかタスクベースばっかりで教えてるところでの合格率ってどうなんだろうって話ですよ。

 

そんなこと言うと、「いやいやうちは文型積み上げから変更して、きっちり効果上げてるよ!」なんて声が聞こえてきそうですが、俺みたいなひねくれものが正直に言ってしまうと、某基金のようにいろんな意味で余裕のある巨大な組織が、公務員だとか外交官になるような優秀な学生なんかを相手に教えたところで「そんなの誰が何を使ってどう教えようが、そこそこできるようになんだろ」という気持ちがどうしてもぬぐい切れないわけですよ。暴言マジですみません。

 

日本語学校勤務の俺としては、「高校も大学もぎりっぎりの成績でなんとか卒業して、ぎりっぎりの予算で留学して、専門か大学出たらさっさと働きたい」みたいな学生を相手に、「420時間や検定だけで修士もなければ専攻でも副専でもない、何なら新卒で社会人経験もない」という同僚たちと一緒に、進路指導やら学校行事やらに追われながら教えていても同様に効果が上がるのかが気になるわけですよ。たぶん同じように思ってる日本語学校の先生って結構いるんじゃないですかね。

 

あ、誤解される前に言っておくと、俺は文型積み上げは数年前に捨てました。文型積み上げを否定するわけじゃなく、俺が教えてる学生たちには向かないという話です。今は、初級は「つなぐにほんご」、初中級からは「まるごと」の2本で教えてます。

 

つまり、俺としてはこの教科書をしっかり信頼して効果が上がってるとは思ってるわけです。だいぶ前から言い続けてきたけど、文型積み上げを捨てたからと言って文法を捨てたわけじゃないんです。教科書が変わっても文法はしっかりやってます。授業への組み込み方が変わっただけです。

 

さて、話を戻して、個人的にはこの教科書に効果を感じてるけど、日本語学校勤務の立場としては

自分で出した教科書をよく言うのは当然だ、信頼できない、み〇日万歳。」

「まるごとを使って効果が高いのは基金で教えている人たちだけだ。日本語学校では使えない。」

みたいな人の気持ちもすごくよく分かるんです。

 

てことで、2年ほど前から中級レベルは完全にまるごとでいってる俺の学生たちのJLPT合格率がどうなったかってのを見てみると、行動中心アプローチを推奨する人たちの話の真偽がわかるんじゃないかなってわけです。

 

結果から言うと、み〇日やめてJLPTの結果が悪くなったなんてことは全くありません。劇的によくなったなんてこともないけど、文法力は全然変わりありません。これはJLPT本試験、校内N5〜3レベルの模擬試験全ての結果から言えます。み〇日であんなに文型練習帳やら標準問題やらいっぱいやってたのに、意味なかったのかよとちょっとがっかり。

 

コミュニケーション能力に関しては、きちんと調査したわけじゃないけど、事務の職員の方々に言わせれば「最近の学生はよく話す」らしいです。

つまり、「文法力は変わらず。会話力は上がった。」という感じです。

※あくまで主観です。

 

さて、それでは肝心のJLPTの結果についてです。うちみたいな日本語学校では、非漢字圏の学生はN3を持っているのと持っていないのとではだいぶ進学に与える影響が変わります。N2があればかなり優遇されます。

じゃあ、去年のJLPTの結果はというと、うちはネパールとウズベキスタンの学生がほとんどなんですが、N3の合格率62%。去年は7月の試験が中止になったので、12月の一発勝負です。人数は70名ほどで、半分は10月期の学生だから来日して1年ちょっと。N2に合格した人も2,3人ベトナム出身の学生が1人だけいて、その人はなんとN3で170点超えてた。すげえ。N2受けさせればよかった。

ちなみに中国の学生は3人しかいないけど全員N2には合格してたね。

 

去年は7月の試験が中止になったから代わりに模擬試験を受けさせてたんだけど、模擬試験でのN3以上合格率はというと75%。まあ、あくまで模擬試験だし、当然本番より合格はしやすいんだけど、カンニングし放題の本試験と違ってこれでもかっていうほど不正行為を取り締まってたからある意味信頼度は本試験より上かも笑

 

この数字を見て、他の日本語学校の先生方はどう思うのか。「60%程度じゃ全然足りない、やっぱり文型大事」ってなってしまうのか。

 

ツイッターでちょっとアンケートを取ってみたところ、↓のような結果に。

https://twitter.com/tomo_jpnstchr/status/1371597791688945665?s=21

 

普通~多いと感じる人がなんと80%

ちょっと少ないと感じる人もいるようです。優秀な学生が集まる学校さんですね。

正直「少なすぎ」という意見は半信半疑です。すみません。なら最初から選択肢作るなって話ですけど。

6割で少な『すぎる』ってことは、きっと8~10割を目指すということなんでしょうが、そもそも認定率3割の試験で何十人も受けて100%合格は相当厳しいと思うんですよね。受験者数10人以下とかならともかく。

 

さてさて、そんなわけで、うちは「つなぐにほんご」と「まるごと」に変えたわけですが、全然JLPTで悪い結果なんかは出なかったわけです。むしろ結構いい感じの結果のようです。

 

「文型積み上げてないのになんで!?」と思う方もいるかもですが、理由はさっきも言った通り、文法の勉強をやめたわけじゃないからです。積み上げてはいないけど、文法はしっかり勉強する、かつタスクもがんがんこなすから、JLPTのP、「proficiency」はどんどん上がっていくわけですよ。

 

 

ところで、「文型積み上げならコミュニケーション力は劣るかもしれないけど文法はしっかりできる」みたいな意見もときどき見ますが、そーゆーわけでもないんじゃないですかね。

今俺が所属してる学校も、教科書とか授業のやり方を変える前は形はわかるけど意味・使い方がよくわかってないみたいな人がたくさんいました。文型積み上げとかオーディオリンガル的な指導法をする人って「形が全て」って感じが抜けてないのかなって印象を受けるときがあります。

 

A「先生、それ、私が持ちませんか。」 

B「先生、それ、私が持ちてましょうか。」 

※いずれも「持ちましょうか」の間違い

 

Aは『形はあってるけど使い方が違う』、Bは『使い方はあってるけど形が違う』ですよね。

間違いのレベルとしては同じようなもんなんだけど、なぜかAの方が『形が正しいから大丈夫』みたいに軽く扱われていたような気がします。

実際にはAもBも文法力としては大差ないわけで、それならタスクをこなすためにどんどん日本語を使う授業をしていった方が最終的に日本語上手になるのは容易に想像できますね。

 

そんなわけで、

タスクベースが効果的って言われてるけど、優秀な人が優秀な人に恵まれた環境で教えたデータだけでもの語ってんじゃないのか」っていう疑いでしたが、そんなこともなくうちのような日本語学校でもしっかり効果は出てくれました。

 

最後に1つ注意ですが、ここまで書いた内容だと「うちはタスクベースの教科書だけでJLPTそこそこ合格した」みたいに見えますが、うちでJLPTの対策を一切していないわけではありません。対策用の教材として模擬試験やら問題集やら少しは使います。ただ、それは教科書を変える前から使ってました。うちで対策教材を使う主な理由の1つは、「試験の形式に慣れる」です。同じ日本語力の人でも、同じ形式の試験の経験が多ければ多いほど点は取りやすくなるので、そのためにも対策教材は使います。逆に言えば、どんな優れた教科書で勉強してても慣れない試験では点が取れないってことなので、みん日だろうがまるごとだろうが対策教材は必須です。使い方はタスクベースとか文型積み上げとかそんなレベルの話ではなく、普通に言語知識を増やして問題解いて慣れるだけです。

 

ちょっと話はそれるけど、最近某大手日本語学校の養成講座受講者がうちの学校の授業を見学しに来たんですが、「初級レベルでこんなに普通のスピードで話すなんてびっくりした!」って言われたんですよ。俺としては、「え、そこ?」ってくらい意外な話だったんです。講座では初級レベルではゆっくり話すように指導されてたんですかね。

そういえば、1年くらい前にうちの学校の事務担当の人がそこの講座を受けてたんですが、初級実習でめっちゃ細かく書かれた教案の未習語彙・文法をダメ出しされまくってました。

え、これ何年前の講座?と結構衝撃。これでもかというほどの大手日本語学校なのに。

なんていうか、やっぱりこういうところから変えていかないとダメなのかなと思わせる出来事でした。

 

 

ちなみに、前にTwitterでも言ったことあるけど、文型積み上げの教科書の効果的な使い方っていうのももちろんあると思います。

それは「辞書として使う」です。

例えば中国の大学で中国人の先生が中国人の学生だけに教えるような場で、コミュニカティブな活動をしている途中でわからない文法が出た時なんかに「じゃあ○○課の例文2を見て。今のはこれです。」みたいに文法の解説に使って、そんで文法の形と意味が確認できたらまた活動に戻る、みたいな、そんな使い方なら効果的かと思います。

タスクベースの教科書も文法は学べるけど、「さっき日本人が使ってたあの文法なんだろう、あれについてもっと知りたい」みたいな時にはやっぱり不向きなんです。そんな時にみん日+母語の文法解説とかあると便利。これはやっぱり文法を0から整理してある教科書の強みです。

日本語学校で文型積み上げを使うのが批判されてるのは、この「辞書」をコミュニケーション力養成に使おうとするからですよね。国語辞典を教科書にして会話練習なんかできるかって話です。

 

 

さてさて、ここらで話をまとめると、結局

 

タスクベースでも試験に合格するだけの日本語力はつけられる

 

っていうのが俺の結論です。

他の学校さんはどうなのから知らないけどね。

文型積み上げの教科書をやめた学校だけでの調査結果とかあったら、誰か教えてください。

 

※この記事の補足

前回の補足 - 日本語教師奮闘記