日本語教師奮闘記

日本語教師です。普段はツイッターでしょーもないことばっかり呟いてます。

練習Cってどうなの?

みなさんこんにちは。友です。
ちょっとツイッターで某日本語の教科書について呟いたら結構いろいろなコメントをいただきました。みなさんありがとうございます。

それで、コメントを見て思ったことですが、
「あれはいい練習だ」「私は教科書通りにやる」
という人の少なさがやばい。

ただやばいやばい言ってるだけなのもアレなので、一応個人的な意見もしっかり書いておこうと思います。

まず、あれがなぜダメなのか、というところから触れましょう。

件の本は簡単なものから難しいものへと進んでいく「文型積み上げ式」の教科書です。
進め方は、まずは形をしっかり覚えて、その後応用の会話練習をしていく、というもの。
練習A、B、Cとあって、練習Cは会話形式で文が書かれています。
Aは構造をわかりやすく示した例文、Bは変換や代入など、そしてCは会話練習、という流れなのでしょう。

しかし、はたして本当にCは「会話練習」なのでしょうか。

有名な本なので知っている人も多いでしょうが、練習Cは会話形式で「書かれている」ものです。そう、最初っから書かれちゃっているのです。会話が。


え、自分で会話考えないの?


ってなりますよね。会話練習なのに。
例えば、この練習、「〜ています」を学んだ課ではこんな感じで出てきます。

A:さあ、会議を始めましょう。あれ、佐藤さんは?
B:ああ、佐藤さんは今( )。
A:そうですか。じゃ、少し待ちましょう。
①コピーをします
②お茶をいれます
※実際は①②は文じゃなく絵で示す

これで、自分で( )に入る言葉を考えて形を変えてみましょうっていう練習です。

断言しますが、これは会話練習ではなく、語彙と活用の練習です。会話練習に全くなっていません。

いやいや、あれは短い場面を与えているだけで、会話のきっかけを作っているにすぎないんだ。できる人はその前後を考えさせて、しっかり会話練習を…

ってちょっとまって。確かにアレンジしたり前後を加えたりしてもっと会話内容を考えさせることもできるけど、そもそもこれは「〜てください」を『いつどこでどうやって』使うかの練習ですよね。
最初から場面を与えて「『〜てください』を使いましょう」って指示をだして…それじゃこの文型の使い方が身につくわけがないんですよ。
考えさせたいのは『前後』じゃなく、どの流れで「〜てください」を使うか、でしょう。一番考えさせなきゃいけないところを最初から与えてどうすんの。

ちょっと話はとびますが、日本語教師なら「コミュ二カティブアプローチ」というのは知っている人が多いと思います。
今ではもう古いものになりつつありますが、コミュ二カティブアプローチでは「実際のコミュニケーションには『情報差→選択→フィードバック』がある」と考えていて、これってすごく大事なことだと思うんですよね。

情報差っていうのは、例えば、相手が知っているけど自分が知らないことなど。
選択っていうのは、その情報差を埋めるために「自分がどのような言動をとるか」を選ぶこと。

知らないことを教えてもらうだけでも、「教えて」「それ何」「ご教示いただけないでしょうか」「教えろ」などなど、様々なことばがあって、その中のどれを選ぶかが非常に重要。

たぶん指導歴の長い先生なら経験あると思うんですが、「ある文型を教えたら意味がよくわかってなくてもいろいろな場面で使いまくっちゃう学生」っていますよね。
これって、情報差からの『選択』の練習が足りてない証拠です。

だから、「習ったことばを手当たり次第使う」ではなく、「習ったことばはいつ使うべきで、いつ使うべきではないのか」という、「使わない選択」っていうのも考えなければならないはずなんです。

で、例の練習Cは最初から場面も意味も機能も全部与えちゃってるから「情報差」も「選択」もありはしない。何も考えずただ形を変えるだけの練習になっちゃってる、ってことですね。

一応教師用指導書には「これは変換練習や代入練習ではない」と書いてありますが、教科書を使うのに教科書に書かれていることを見ない人なんていないでしょうっていう。

こんな話をすると、「いやいやいやそれでもその場面を変えたりして応用練習につながれば」って反論が出てきそうですが、そうなるともはや「そんだけ『アレンジ』とかいって変えまくるなら、そもそも教科書いらないじゃん」って思っちゃうんです。全部の課にアレンジしなきゃ使えないような練習が入ってるって、授業準備大変じゃん、時間かかるじゃん、授業多い人はどうすんの、と。

最近は行動中心アプローチに基づいた教科書がいろいろ出てきましたが、それらはどれも「教科書通りに進めていくだけ」の本ばかりです。何も準備しなくても、授業開始5分前に「ごめん、うちの息子が熱出したから次の授業変わって!」とか言われても、教科書があれば準備なしでもいけちゃうのだから、これは便利だなと思います。


話がずれてきちゃったんで戻しますが、結局俺は
・そのままだと会話(応用)練習にならない
・アレンジするのもめんどい
ってことで、最近この練習を飛ばしまくってる、というわけです。

うーん、利用者が多いだけに敵を作りそうな記事ですね。
敵ができたらきっとア○クさんとか某基金さんがフォローしてくれると信じています。